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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

それはともかく、彼はあまりにその悲惨な声に、思わず足を停めた。

女は何処にいるのかと、声をたよりに探してみると、彼女は屋根が地上を舐めているその切れ目のところに、うつぶせになって喚いていた。丸髷の根がくずれて、見るもあさましい形になってはいたが、真新しい明石縮の粋な単衣を着た下町風の女房だった。しかし見たところ、別に身体の異状はないらしく、ただうつぶせになって騒いでいるところをみるとこれは気が違ったかも知れないと思ったことだった。

「どうしたの、お内儀さん……」と、彼はその背後によって仮りに声をかけた。

「ああッ――」と、女は丸い肩をグッと曲げて、顔をあげた。女は彼よりも五つ六つ、年上に見えた。乱れ髪が額から頬に掛っていた。彼女は邪魔になる髪を強くふり払って、杜の顔を下から見あげた。

「ああッ、た、助けてえ。お、拝みます」

女は躍びかかるような姿勢で、杜の方に、身体をねじ向けた。青白い蝋の塊のような肉づきのいい胸元に、水色の半襟のついた膚襦袢がからみついていた。

「手、手、手だ。手を抜いてください」

女は両眼をクワッと開いて、彼の方に、動物園の膃肭臍のように身悶えした。