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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

杜はカンカン帽のつばに、指をかけた。

女は狼狽の色を示した。

「待って。――後生ですから、あたしを、連れていって下さい」

「困るなァ。僕は僕で、これから会社へちょっと寄って、それから浅草の家がどうなったか、その方へ大急ぎで廻らなければならないんですよ。とてもお内儀さんの家の方へついていってあげるわけにはゆきませんよ」

女は、顔からスポリと被った手拭の端を、唇でギリギリ噛んでいたが、

「でも、さっき聞いた話では、あたしの住んでいた本所の緑町はすっかり焼けてしまったうえに、町内の人たちは、みな被服廠へ避難したところが、ひどい旋風に遭って、十万人もが残らず死んでしまったといいますからネ。あたしそんな恐ろしいところへ、とても一人では行けやしませんわ」

杜はそれをきくと太い溜息をついた。なんという勝手なことをいう女だろう。しかし女はこの焼け野原を見てほんとうに途方にくれているらしかった。

「――じゃあ、僕がすっかり用事を済ませてからでいいなら連れていってあげてもいいですよ。しかし何日目さきのことになるかわかりませんよ」

「ええ、結構ですわ。そうしていただけば、あたし本当に、――」