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かんおけのはなよめ

棺桶の花嫁

海野 十三

「ぷろふいる」1937(昭和12)年1~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,845 字 · 86 页

青空文庫

あなた心配しないでネ」

「でも、こうなっては僕も――」

「心配いらないのよ。あたしに委せて置いてちょうだいよ」

「そうだ、丁度会社の方も仕事を始めて、給料をくれることになったから、どこか焼けていない牛込か芝の方に家を見つけて移ろうか。それともここで君と――」

「いやいやいや」とお千は大きくかぶりを振って、その先を云わせなかった。

「引越した方がいいと思うわ。あたし、どこへでもついてゆくわ」

そういったお千は、そこでまた身体をブルブルと慄わせると、慌てて座を立って、奥へ駈けこんだ。

9

お千が、冷たい骸となったのは、その翌日のことだった――。

その日、杜は会社へ出たが、戦争のように忙しい仕事の中にいて、ともすれば仕事をまるで忘れてしまうことがあった。彼はなにかの隙があったら、お千と一緒に住む家を、焼け残った牛込か芝かに求めたいものだと焦せっていた。だが彼の希望は、あとからあとへと押しよせてくる会社の仕事によって、完全に押し潰されてしまった。しかもその日は、夕方になっても仕事の段落がつかず、遂に会社を出たのが夜更の十時だった。会社に泊ってゆけという上役や同僚たちの薦めであったけれど、彼はそれをふり切るようにして、懐中電灯片手に、お千の待っている家路に急いだのであった。