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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
「赤とんぼ」実業之日本社、1946(昭和21)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,002 字 · 13 页
がけの上のひろい庭に、大きな椎の木がありました。何百年たったかわからない、古い大きな木でした。根かぶが張りひろがり、幹がまっすぐにつき立ち、頂の方は、古枝が枯れ落ちて、新たな小枝がこんもりと茂っていました。朝日がさすと、若葉がさわさわと波だち、椋鳥や雀がなきたてました。
春さきのこと、あたたかいそよ風が吹いて、この椎の木も笑ってるようでした。
その根もとに、二匹の鼠がかけまわっていました。小さいのが、根のはりだしたかげにかくれていますと、大きいのが、とびついてきます。とたんに、小さいのは逃げだして、根かぶの向うがわにまわります。大きいのは追っかけてゆきます。小さいのはまた逃げだします。そして、根のまわりをぐるぐるまわったり、立ちどまって相手のようすをうかがったり、逆にまわったりします。
そのうちに、こんどは大きいのが逃げ、小さいのが追っかけます。
鬼ごっこをして遊んでるのでした。
ところが、大きいのが、何かのけはいを感じて、じっと立ちどまりました。小さいのがとびついてきても、身動きもせず、ふりむきもせず、あちらを見つめています。首をすこしかしげ、耳をたて、長い尾をぴんと伸ばしています。