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しいのき
椎の木
豊島 与志雄
「経済往来」1934(昭和9)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页
それは狂人と犯罪人との中間の眼だ。次に僕の心を打ったのは、狭い額や、ふくれた頬や、短い※(「臣+頁」、第4水準2-92-25)など、全体の丸い輪郭と、太い鼻とだった。竹山茂樹の写真の配列法に随えば、最も嫌いな部分に置かれる顔立だった。そして古ぼけた洋服に、金鎖をからませていた。
そういう男に対して、僕がどんな感情を懐いたか、君にも想像がつくだろう。それは反感に近いとさえ云えるのだった。僕は冷決な態度をとった。先方はばかに丁寧に、わざわざ卑下してるかと思えるほど卑屈だった。然しそれにも拘らず、話は直ちに用件にはいっていった。実子の竹山茂樹に一目逢いたいとの一心で生きているので、もし御存じだったら願望をかなえさして頂きたいと、そういうのだった。
それから彼は現在の境遇を話した。大阪で女を殺害しかけてつかまった時、その少しまえに犯した詐欺まで発覚して、三年半の刑期をつとめなければならなかった。出所後、京城へ行った。覚悟をきめて働き通し、数年後東京へまい戻って、製菓会社に勤めていた。刑余の身をこうして無事に暮せるのも、其後の正しい決心の賜物だというのだった。