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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「経済往来」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页

青空文庫

」

湯の湖のことだなと良一は思いながら、笑ってききながして、スキーの話や熊の話をした。

「ずっと奥までは、雪のために行けないんだろうね。」と川村さんは云った。「こんど雪のない時に行ってみ給え、あれから山を越した先に、面白いところがあるよ。やはり温泉がふきだしているんだが、どういうわけか、温泉の中にとけこんでいる鉱物質がわかれて、それが岩のように固まり、次第に高く積って、今では小さな山ほどになっている。温泉は無限にわきだすし、鉱物質はかたまりつづけるし、毎日毎日高くなるので、何年か後には、世界にくらべ物のない名物となるだろう。湯の中の鉱物質、まあ湯の花だね、それがつもって富士山みたいになり、更に日に日に高くなりながら、その頂上からは温泉がふいている……。すばらしいじゃないか。」

川俣の噴泉塔のことだなと良一は思ったが、こうなると、少し腹がたった。子供あつかいにばかにされてるような気もしたし、或は川村さんはやはり熱にうかされてるんじゃないかと思った。そして何だか落付がなく、その上、菓子や珈琲をもって、ちょっと顔を出してはまた引込んでゆく、若い美しい女のひとのことがへんに気にかかった。