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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「経済往来」1934(昭和9)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,870 字 · 52 页

青空文庫

そしてただ一目茂樹に会いたいと、始終探しているのだった。

云うことは正しく、調子は鄭重で、態度は卑屈だった。僕は変にちぐはぐな印象を受けて、初めの反感が消えなかった。それで思いきって――そうでなくとも僕の性質としては同じことをしたろうが――茂樹親子の境遇をぶちまけ、茂樹の精神状態まで話してきかした。

「どうしても、逢ってはいけないものでございましょうか。」と彼は云った。

「時機があると思います。その時が来たら僕が取計らってあげましょう。ただ、今すぐはいけません。」と僕は云いきった。

その時の僕の態度を、小鈴はあとで、まるで裁判官のようだと云った。然し僕は、彼の過去の行為を責める気は少しもなかった。ただ、現在の彼に対して、何かしら腹に据えかねるものがあった。それは殆んど動物的な感情だったかも知れない。

それから一ヶ月ばかり、竹山茂吉からは何の消息もなかった。そして突然、昨日電話があって、今晩、先程のあの料理屋で逢った。

茂樹がもっていったあの拳銃を、君はどう思ったかね。あれは、竹山茂吉から僕に預けた品なんだ。彼はこんな風に云った。

「あの後で、私はいろいろ考えましたが、結局、茂樹に逢うことは到底出来ないような気が致しました。