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しいのき

椎の木

豊島 与志雄

「赤とんぼ」実業之日本社、1946(昭和21)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,002 字 · 13 页

青空文庫

猫はそれをかぎはじめました。

――おかしなことだ。さっきは鼠のにおいがしていたし、こんどは小鳥のにおいがしている。こんなところに小鳥のにおいがするとは、どうもへんだぞ。

猫はかぎまわって、がけの方まで行き、遠く見わたしました。日の光と人家ばかりで、なんの変ったものもありませんでした。一郎は猫のあとを見やりながら、二郎に言っていました。

「凧にだるまの絵なんかかいてもらうからいけないんだよ。僕が張りかえてやるから、こんどは竜の絵をかいてもらえよ。」

「だって、竜の絵は、黒い雲ばかりで、まっ黒だよ。つまんないや。」

「赤いんだってあるさ。真赤な雲の中に、真赤な竜がおどってるのは、すてきだよ。」

「そんなの、太田先生がかいて下さるかしら。」

「僕がたのんでやるよ。」

「でも、このひげだるまも、とてもよかったよ。」

「そんなにすきなら、ちゃんとした紙にかいてもらおう。僕がたのんでやるよ。」

「うん。」

二郎は泣きそうな顔をやめて、にっこり笑いました。

「だが、おかしいなあ。木の上の凧を、椋鳥が取ってくれるなんて……。」

一郎はつぶやきながら、猫を呼びました。

「ミミー、ミミー……。