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つばきのはなのあか
椿の花の赤
豊島 与志雄
「公論」1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,755 字 · 22 页
その地面の先は低い崖で、ずっと低地になっていた。そちら側の二階に別所の室はあったので、さまで高くない椿の立木ごしに、低地の屋根並が見渡せた。それらの屋根の一つの下に、斜めに見える室があって、雨戸があるのかないのか、とにかく板戸を閉められたことがなく、いつも硝子戸のままになっていて、而も夜通し電灯が明るくともっていると、別所は云うのである。
すべて節約の時代だから、もう夜の十二時すぎになると、屋根並は一面の闇に沈んでしまい、ただ遠くにぽつりと二つ三つ、何かの柱頭の裸灯が見えるきりだった。その闇の中にただ一つ、凡そ十軒ばかり先方の屋根の下に、明るい室が宙に浮いたように見えるのである。その灯火は朝まで消されることがない。而も、人影一つささず、明るいまま静まり返っている。その室には一体、誰か人が住んでるのであろうか。住んでるとすれば、夜通し何をしてるのであろうか。――別所はそれを気に病んでいた。
李がそれを知って、また独特なことをやってのけた。李の室は他の側にあったが、別所の室から問題の家を見定め、その辺の町筋を探査して、そして或る夜更け、その家の前で、「二階の灯火を消して下さい、夜通しつけ放しにしないで下さい、」