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ぜにがたへいじとりものひかえ

橋の上の女 ――銭形平次傑作選2

野村 胡堂

野村胡堂『橋の上の女 ――銭形平次傑作選2』。同一底本的分册已合并为一书。收入:銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控、銭形平次捕物控。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,573 字 · 178 页

青空文庫

向島の方から一艘の小舟が、灯もなく静かに近づくのです。やがてその舟が、平次と八五郎の乗った舟に近づくと、闇をすかして此方を見ている様子でしたが、何事もないと見きわめがつくと、舟足をピタリと停めて、舷から、スルスルと真っ黒な水面に滑る者があるのです。

「もう少し傍へ寄りましょうか、親分」

平次の耳の側で、八五郎は擽ったく囁きます。

「いや、動くな――川の中に竿が一本立っていた筈だ、――その竿を見定めておいたのが良かったのだよ、暫らく待て――」

平次の声も、微風のようにそよぎます。

それからまた、やや暫らく経ちました。何やら水の音がして、相手の舟にドッシリした物が投げ込まれます。

やがて物音が大きくなって、闇の中にも何やら、飛躍的なものを感ずると、平次の手から一道の灯がパッと射しました。泥棒がん燈です。

「あッ」

八五郎は思わず声をあげました。泥棒がん燈の丸い光の中に浮んだのは、何んと、緋縮緬の腰巻一つになって、裸体になった女の立ち姿、それは全身水に光って人魚さながらの美女、蒼白い顔、肩に流るる黒髪、――それは凄艶にも、昇華し去りそうな美しい姿です。

その美しくも無気味な情景も一瞬にして消え、女は身を翻して、夜の水の中に、ザブンと跳び込んだのです。