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きかい

機械

横光 利一

「改造 第十二卷第九號」1930(昭和5)年9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,553 字 · 41 页

青空文庫

第一そう度々落す以上は今度は落すかもしれぬからと三度に一度は出すときや入れるときに気附く筈だ。それを気附けば事実はそんなにも落さないのではないかと思われて考えようによってはこれは或いは金銭の支払いを延ばすための細君の手ではないかとも一度は思うが、しかし間もなくあまりにも変っている主人の挙動のために細君の宣伝もいつの間にか事実だと思ってしまわねばならぬほど、とにかく、主人は変っている。金を金とも思わぬという言葉は富者に対する形容だがここの主人の貧しさは五銭の白銅を握って銭湯の暖簾をくぐる程度に拘らず、困っているものには自分の家の地金を買う金銭まで遣ってしまって忘れている。こういうのをこそ昔は仙人といったのであろう。しかし、仙人と一緒にいるものは絶えずはらはらして生きていかねばならぬのだ。家のことを何一つ任かしておけないばかりではない、一人で済ませる用事も二人がかりで出かけたりその一人のいるために周囲の者の労力がどれほど無駄に費されているか分らぬのだが、しかしそれはそうにちがいないとしてもこの主人のいるいないによって得意先のこの家に対する人気の相異は格段の変化を生じて来る。