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とちのはな
橡の花
「青空」1925(大正14)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,685 字 · 22 页
手の調子がきまって来たためです。当然きこえる筈だったのです。なにかきこえると聴耳をたてはじめてから、それが一つの可愛いリズムだと思い当てたまでの私の気持は、緊張と云い喜びというにはあまりささやかなものでした。然し一時間前の倦怠ではもうありませんでした。私はその衣ずれのようなまた小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました。それにも倦くと今度はその音をなにかの言葉で真似て見たい欲望を起したのです。ほととぎすの声をてっぺんかけたかと聞くように。――然し私はとうとう発見出来ませんでした。サ行の音が多いにちがいないと思ったりする、その成心に妨げられたのです。然し私は小さいきれぎれの言葉を聴きました。そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。――おそらく私は一生懸命になっていたのでしょう。そうした心の純粋さがとうとう私をしてお里を出さしめたのだろうと思います。心から遠退いていた故郷と、然も思いもかけなかったそんな深夜、ひたひたと膝をつきあわせた感じでした。私はなにの本当なのかはわかりませんでしたが、なにか本当のものをその中に感じました。