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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

「おわびしたら、どうだ。」

俊亮が微笑をふくんだ眼で次郎を見た。次郎は、しかし、もうつめたい眼をしてお内儀を見ているだけである。すると、お内儀さんは、

「ほっほっほっ。」

と、急にわざとらしい空っぽな笑声を立て、

「私は、こんな小っちゃな坊ちゃんに、何もお芝居めいてあやまって貰いたくはありませんよ。それよりか、このお酒のおかげで台なしになった春月亭の暖簾を、どうして下さるおつもりなのか、それがお伺いしたいんです。」

「あの酒を、もうおつかいでしたか。」

「つかいましたとも。まさか酒屋さんがつかって悪いお酒をお売りになろうとは思っていませんからね。」

「おつかいにならんように、そう言ってあげたはずですが。」

「私の方のお客は、日が暮れてからばかりみえるとは限りませんよ。」

「それは、いよいよ、すまないことでした。」

俊亮はそう言って、ちょっと眼を落した。お内儀さんは、「それでどうしてくれるんだ」というような眼付をして、俊亮をまともに見つめていたが、俊亮が、そのあと、いっこう口をきかないので、たまりかねたように、

「ねえ、本田さん。」

と、燗徳利を自分の膝のまえに引きよせ、