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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

03 第三部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页

青空文庫

彼は、ふみこんではならない神聖な祭壇に土足をかけたような気がして、われ知らずはね起き、きちんと机の前に坐った。と、ちょうどその時、俊亮が帰って来たらしく、すぐ下の店で仙吉と何か話すのがきこえて来た。次郎は耳をそばだてた。

「へえ、そうですか。私なら、せいぜい半金ぐらいでぶちきって来ましたのに。」

「そうも行くまい。どうせあの酒は役に立つまいからね。」

「しかし、向こうじゃ、煮物のさし酒ぐらいには役に立てるでしょうよ。」

「そりゃそうかも知れんが、そこまでこまかく考えんでもいいさ。」

「じゃあ、こちらに引きとったらどうでしょう。」

「引きとるって、あの酒をかい。」

「ええ。」

「引きとってどうする。」

「どうするってこともありませんが……」

「こちらで捨てるぐらいなら、向こうで役に立ててもらった方がいいよ。」

「でも、それじゃあ癪ですねえ。」

「ふっふっふっ、そんなけちな腹は立てん方がいい。次郎に、世の中にはあんな人間もいるっていうことを教えてもらったと思やあ、ありがたいくらいなもんだよ。」

次郎は、はっとしたように、首をもたげた。

「で、どうでした。やっぱり次郎さんがあやまりなすったんですか。