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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
03 第三部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 117,781 字 · 235 页
」
「わかりません。」
「わからんことがあるか。先生の書き誤りに気がついていたら、なぜもっと早く言わんのじゃ。」
先生は、単に「誤り」と言う代りに、「書き誤り」と言った。そして、力まかせに次郎の腕を引っぱった。次郎は相変らず机の足にしがみつきながら、
「僕は、たったいま気がついたんです。気がついたから、すぐそう言ったんです。」
「嘘ついても駄目じゃ。お前には、いつも、先生のあら探しをして面白がる癖がある。ほかの先生も、そう言って居られるんじゃ。」
次郎は、そう言われると、やにわに立上って、先生に握られていた右腕をふり放した。そして一瞬、飛びかかりそうなけんまくを見せたが、そのまま、わなわなと唇をふるわせて言った。
「僕は教室を出て行くの、いやです。」
先生は、そのすさまじい態度に、ちょっとたじろいだふうだったが、教室中の視線が自分に集まっているのに気づくと、思いきり大声でどなった。
「何じゃ、貴様は先生に反抗する気じゃな。」
「反抗します。間違った命令には従いません。」
次郎の声も鋭かった。
さて、事態がそこまで進むと、先生がこれまで自分の威厳を保つために蓄えていたわずかばかりの心のゆとりも、もうめちゃくちゃだった。