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おうしゅうきこう
欧洲紀行
横光 利一
横光利一『欧洲紀行』。同一底本的分册已合并为一书。收入:欧洲紀行、静安寺の碑文、北京と巴里(覚書)、我等と日本、スフィンクス(覚書)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,107 字 · 241 页
ある練習艦隊が赤道近くまで来たときに士官が下士卒に望遠鏡を渡し、どうだ向うに赤い線が見えるだろう。あれが赤道だとからかうと、はい見えます。と答えたと云う話がある。水平線までは船から六哩だということ、マラッカ海峡の不思議さをいろいろ聞いたが、早くそこを見たいと思う。佐藤次郎の飛び込んだのもそこなら、あのときの船も、この船だ。
シャリアピンの乗って来た船もこの船である。事務長はシャリアピンからウオッカの上等の残りを貰ったのがまだあるがこれだと云って一杯注いでくれる。ふと唇にあてると、獣の匂いがする。
欧洲航路の船客というものは、どこかの学校へ入学したようなものだ。二度目の者を、われわれの先輩と呼ぶ。老若貴賤の区別なく一年生は一年生の感動をもって、先輩の意見に耳を傾ける。ところが先輩諸君の訓戒は、何人も興味を感じるに相違ない話ばかりを選んでいく。一度、これらの話中に巻き込まれたが最後、その警戒はなくなってしまう。夫婦の船客だけは自らノックアウトされていく。筆には書けぬ話というものは、いかにこの世の中に豊富に存在しているか、計り知れぬものだ。
上海に前に行ったのは昭和三年である。