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うたごえよ、おこれ
歌声よ、おこれ
宮本 百合子
新日本文学会の由来
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,340 字 · 11 页
の浪費の渦中にあったとき、一つ二つ、あるいは事態そのものについて、一生忘られない感銘をうけたことがなかったとは、けっしてけっしていえないであろう。自分のこれまでの人生なり社会なりの見かたを変えるなにかが加えられた、と感じる瞬間が必ずあったろう。戦争については周知のような態度であった尾崎士郎のような作家でさえ、あわただしい雑記のうちに、印象が深められずに逸走してしまう作家として苦しい瞬間のあることをほのめかしている。火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空軍を報道員らしく揶揄しながら、日本の陸軍が何十年か前の平面的戦術を継承して兵站線の尾を蜒々と地上にひっぱり、しかもそれに加えて傷病兵の一群をまもり、さらに惨苦の行動を行っているのにくらべて、アメリカの近代科学性は、航空力によって天と地との間に立体的桶をつくり、立体的機動性をもって敏速に、生命の最小犠牲で戦線を進展させていることを描いている。文章そのものが、ここでは、筆者のうけた正直な感銘深さを示していた。火野にあってはただ一つその感銘を追求し、人間の生命というものの尊厳にたって事態を検討してみるだけでさえ、彼の人間および作家としての後半生は、今日のごときものとならなかったであろう。