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かしゅう『わくい』をよむ
歌集『涌井』を読む
和辻 哲郎
「余情 第十集」1949(昭和24)年6月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,550 字 · 5 页
その後東京の町は激しく破壊され、先生が大震災後住みついていられたお宅も、愛蔵された書籍や書画や骨董とともに焼けてしまった。それのみか、戦いの終わろうとする間ぎわになって、やはり空襲のために、学徒で召集されていた愛孫を失われた。そのあとには占領下の変転のはなはだしい時期がつづく。その一年あまりの間、都会育ちの先生が、立ち居も不自由なほどの神経痛になやみながら、生まれて初めての山村の生活の日々を、「ちょうど目がさめると起きるような気持ちで」送られた。その記録がここにある。それはいわば最近二十年の間の日本の動乱期がその絶頂に達した時期の記録なのであるが、しかしその静かな、淡々とした歌境は、少しも乱れていない。これこそ達人の境であるという印象は、この歌集において一層深まるのを覚えた。
ここには戦争の災禍に押しつめられた、苦しい、いたましい生活がある。が、その生活には、山村の四季のさまざまな物の姿がしみ通っている。時おりの心のゆらぎを示すものも花や鳥の姿である。それを読んで行くと、いかにも静かではあるが、しかし心の奥底から動かされるような気持ちがする。特に敬服に堪えないのは、先生のいかにも柔軟な、新鮮な感受性である。