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うたまろざんげ

歌麿懺悔

邦枝 完二

江戸名人伝

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,396 字 · 23 页

青空文庫

「――――」

「外のことと違って、行きにくいのはお察しするが、どうもこればかりは素直に行ってもらわねえじゃア。……」

「へえ。――」

素直に。――それをいま、改めていわれるまでもなかった。生れて五十一年の間、悪所通いのしたい放題はしたし、普の道楽者の十倍も余計に女の肌を知り尽して来はしたものの、いまだ、ただの一度も賽の目を争ったことはなし、まして人様の物を、塵ッ端一本でも盗んだ覚えは、露さらあるわけがなかった。さればこれまで、奉行所はおろか、自身番の土さえまったく踏んだことがなく、わずかに一度、落した大事な莨入を、田町の自身番からの差紙で、取りに来いといわれた時でさえ、病気と偽って弟子の秀麿を代りにやったくらい。好きなところは吉原で、嫌いなところはお役所だといつも口癖のようにいっていたから察しても、大概その心持は、わかり過ぎるほどわかっている筈だった。

その歌麿に、ところもあろうに、町奉行からの差紙は、何んとしても解せない大きな謎であった。歌麿は、夢に夢見る心持で胸を暗くしながら、家主の指図に従って、落度のないように支度を整えると、人に顔を見られるのさえ苦しい思いで、まず自身番まで出向いて行った。