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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

衣川は法律を学んだ。そうして父の後を踵いで弁護士となって、正義の為に幾多の事件を争った。清川は青春時代の憧憬のまま文学を学び、戯曲家として世に出た。彼の作は最近出づる毎に華かな脚光を浴びつつ多くの若人等に幾多の悩ましき夜を送らしめて居る。

こうやって二人の道は次第に隔って行く。

三十六歳になる衣川は六年前に結婚した。然し家庭は淋しかった。彼等には子が恵まれなかった。その上妻の静枝はいつも病身で一年の中半分は家をはなれて湘南の地方に保養に出かけて居た。粉のような雪が、戸外をとび散っている今宵も、衣川柳太郎は淋しい一人の夕食を済ませて、夕刊にでも目を通そうとしていると、思いがけなく、今は旧友と名づけられる清川純の訪問を受けたのであった。

清川は久闊を叙すると、いきなり今日自分が法律家として出た公判廷の模様について話し出した。けれども之は弁護士たる自分に対する一応の礼儀――世辞に過ぎないように思われる。

彼は対手の訪問理由を臆測するのに苦しみながら、無理にも話の緒口を見つけた。

「実際、君があんな殺人事件なんていうものに興味をもっているとは意外だったよ。