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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

やったな! と思って再びグラスを目につけると、ベッドの中の頭はさっきの形のままですこしも動きません。すると突然さっきの洋服の手が今度は二ツ出て来ました。そうしてふとんを一寸、はいで見て驚いたようにすぐ手をひっこめたのです。Aは余りの恐ろしさにそのまま目をとじてしまって、あとを見なかった。いや見得なかったそうです。それから約三十分の間、彼は肉眼で窓ガラスを通して内を見ていたそうですが、もはや少しも、動くものはありません。だからAは何人かが自殺をしたのを知ったのです。それから何人かがその自殺事件を発見したらしい事をも知ったのです。

どうです。之は被告森木のいう所とまったく一致するではありませんか」

清川はここまで言い来って、ぐっと唾をのみこんだ。先程からにらみつけるような顔をして耳を傾けて居た衣川は堪りかねたか、不意に云う。

「うむ、うむ、それ見給え、僕の信じて居る通りじゃないか。それでその君の友達はどうしたのだ。だまって居るのか」

「親友たる僕に、最近その話をしただけです。あとは誰も知りません」

「けしからん、君も亦君だ。それだけの事実を知って居て、而も一方森木が捕まったことを知って居ながら、なぜ君は、君は! そしてその男は、訴え出ないのだ」