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せいぎ

正義

浜尾 四郎

「新青年」博文館、1930(昭和5)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,327 字 · 43 页

青空文庫

衣川柳太郎はこう考えて終日家に留ることにした。

けれども之はあてにならぬ予期だった。

たよりにならぬ空頼みだった。

其日もくれたけれども、清川は姿を見せなかった。

夜のとばりがおりた時、彼は戸外の大吹雪のおそろしさを思った。たった一人で小田原にこの淋しい夜を送っているであろうところの妻、静枝の上をふと思いおこして手紙を書き出した。そうして夜おそく床についた。

前夜安眠をとれなかった彼は、睡眠剤を多量に服してその夜は床につくなり、ぐっすりとねこんでしまった。

翌日は好晴だった。雪も風もやんだけれども、あたりは一面の銀世界である。

おそい朝食をすませたところへ、女中が、

「御手紙でございます」

と云って厚い封書をもって来た。

静枝に送る手紙をひきかえに、女中に渡した彼は、その封書の裏を返すと、そこには明かに清川純という三字がよまれた。

心をおどらしながら封を切った彼の眼前に展開された手紙は次のようなものであった。

衣川柳太郎様

僕はここに親しきあなたに向って最後の御あいさつを申上げます。あなたは永遠に僕を忘れて下さい。この手紙があなたの手中に落ちると同時に、あなたと僕とは、地上に於いて全く関係のない二人の人間となるでしょう。