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しょうせつのかきおき
正雪の遺書
国枝 史郎
「サンデー毎日」1924(大正13)年4月1日春季特別号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,367 字 · 15 页
た。
「さすがは智慧伊豆。至極の働き」
容易のことでは人を褒めない水府お館さえこういって信綱の遣り口を認めたのであった。
しかるにここに不思議な事には、反徒の頭目由井正雪を駿府の旅宿で縛めようとした時だけは、幕府有司のその神速振りが妙にこじれて精彩がなかった。江戸から発せられた早打が駿府の城へ着いてから、今日の時間にして四時間余というもの、全く無為に費やされたのであった。
不思議といえば不思議のことで、当時にあっても問題とされたが、しかし正雪は自殺したし、その他随身一同の者もあるいは捕らえられ又は殺され、そうでない者は自殺して、取り逃がした者は一人も無かったので、事はうやむやの間に葬られてしまった。
駿府から発した早打が、江戸柳営に届いたのは、ちょうど暮六つの頃であった。
折から松平伊豆守は、老中部屋に詰めていたが、正雪自殺の報知を聞くと、
「それは真実か?」と言葉忙しく、驚いたように訊き返した。
彼にはそれが信じられなかったらしい。引き続いて幾個かの早打が、千代田の門を潜ったが、その齎らせた報知というはいずれも正雪の自殺したことで、それに関しては最早一点の疑いの余地さえ存しなかった。