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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

婦人の甲斐なさ、それよ忠義の志ばかりでおじゃるわ』とこの眼から張り切りょうずる涙を押えて……おおおれは今泣いてはいぬぞ、忍藻……おれも武士の妻あだに夫を励まし、聟を急いたぞ。そを和女、忍藻も見ておじゃったろうぞのう。武士の妻のこころばえはかほどのうてはならぬわ。さればこそ今日までも休まず、夫と聟とは家にはおらぬが、おれが矢の根を日々磨ぎ澄まして、おなじ忠義の刀禰たちに与うるのじゃ。こう衣は砥粉に塗れてもなかなかにうれしいぞイ、さすれば」

「まことよ。仰せは道理におじゃる。妾とてなど……」

「心からさならこの母もうれしいわ。見よ、のう、この匕首を。門出の時、世良田の刀禰が和女にこを残して再会の記念となされたろうよ。それを見たらよしない、女々しい心は、刀禰に対して出されまい。和女とて一わたりは武芸をも習うたのに、近くは伊賀局なんどを亀鑑となされよ。人の噂にはいろいろの詐偽もまじわるものじゃ。軽々しく信ければ後に悔ゆることもあろうぞ」

言いきって母は返辞を待皃に忍藻の顔を見つめるので忍藻も仕方なさそうに、挨拶したが、それもわずかに一言だ。

「さもそうず」

母もおぼつかない挨拶だと思うような顔つきをしていたがさすがになお強いてとも言いかね、やがてやや傾いた月を見て、