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むさしの

武蔵野

山田 美妙

「読売新聞」1887(明治20)年11~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,798 字 · 26 页

青空文庫

その雄々しく見えるところはただ時々の身の挙動と言葉のありさまにあったばかりで、その婦人に固有の性質は(ことに心の教育のない婦人に固有の性質は)跡を絶ってはいない,たしかになくなってはいない。

母が立ち去った跡で忍藻は例の匕首を手に取り上げて抜き離し、しばらくは氷の光をみつめてきっとした風情であったが、またその下からすぐに溜息が出た,

「匕首、この匕首……さきにも母上が仰せられたごとくあの刀禰の記念じゃが……さてもこれを見ればいとどなお……そも刀禰たちは鎌倉まで行き着かれたか、無難に。太う武芸に長けておじゃるから思いやるも女々しけれど……心にかかるは先ほどの人々の浮評よ。狭い胸には持ちかねて母上に言い出づれば、あれほどに心強うおじゃるよ。看経も時によるわ、この分きがたい最中に、何事ぞ、心のどけく。そもこの身の夫のみのお身の上ではなくて現在母上の夫さえもおなじさまでおじゃるのに……さてもさても。武士の妻はかほどのうてはと仰せられてもこの身にはいかでかいかでか。新田の君は足利に計られて矢口とやらんで殺されてその手の者は一人も残らず……ああ胸ぐるしい浮評じゃわ。