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れきしのおちぼ

歴史の落穂

宮本 百合子

鴎外・漱石・荷風の婦人観にふれて

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,780 字 · 17 页

青空文庫

荷風の本質は多分にお屋敷の規準、世間のおきてに照応するものを蔵していて、しかもその他面にあるものが、自身の内部にあるその常識に抵抗し、常識に納まることを罵倒叱咤し、常識の外に侘び住まんことを憧れ誘っている。ロマンティストであるとして荷風のロマン主義の実質はいわば憧れる心そのことに憧れる風なものである。受動的なロマンティストとでもいえようか。このロマン主義にあらわれている彼の受動性は、ヨーロッパ文化の伝統に対して、日本文化の伝統というものをいきなり在るがままの常套、約束、陳腐ごと受けいれ得る性格にあらわれている。また、作品の到るところに散在する敗残の美の描写も、一方にきわめて常識的な通念が人生における敗残の姿としている。それなりの形、動き、色調を、荷風もそのまま敗残の内容として自身の芸術の上に認めている。荷風にあっては、それに侮蔑の代りに歌を添えるところが異っている。身は偏奇館、あるいは葷斎堂に住して、病を愛撫し、「身を落す」自傷を愛撫し、しかしそれらを愛撫するわが芸術家魂というものをひたすらに愛撫する荷風は、ある意味では人生に対する最もエゴイスティックな趣味家ではあるまいか。