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しとかげ
死と影
「文学界 第二巻第九号」1948(昭和23)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,160 字 · 11 页
三平はバーを廻って酔客の似顔絵をかく。ノミシロを稼ぐと、さッさと、やめる。必要のノミシロ以上は決して仕事をしなかったが、人が困っているのを見ると、一稼ぎして、人にくれてやることは時々あった。夏冬一枚のボロ服だけしかなかったが、私を訪ねてくる時には、失礼だから、と、秋の頃にもユカタをきてくる。このユカタは肩がほころびて、もげそうに垂れ、帯の代りにヒモをまいているのであった。ボロ服の方が、どれだけ、人並みだか分らない。然し三平はそうとは知らず、なんしろ、高級な下宿だからネ、先生のコケンにかゝわるといけねえから、このキモノをきてくるんだ、オレは高級はキュークツで、きらいなんだ、と言っていた。
三平は最低の生活にみち足りていた。彼の姉が、松戸に、女給が二十人ちかくもいる大きなカフェーをやっていて、三平に支配人をやれと頻りにすすめていたが、カフェーは下賤な職業だ、と、ひどく憎んで、ニベもなく断りつゞけていたようである。知らない土地の交番では必ず咎められる乞食の風采をして、然し、彼の魂は変テコリンに高かった。
空襲のころ、神保町の古本屋を歩いていると、何年ぶりかで、三平に会った。