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しとかげ
死と影
「文学界 第二巻第九号」1948(昭和23)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,160 字 · 11 页
慾がなくなると、ふるさとが見えるものだ。本当に見える。オレと一しょに旅にでて、木賃宿へとまって、酒をのんで、歩いて、そして、先生にも、きっと見える」
三平の眼は気違いじみて、ギラ/\光ってくるのであった。
「先生、今日は先生にオゴリにきたよ。たまには、三平の酒をのんで下さい。そのつもりで、ゆうべ、よけい稼いだんだ」
私をオゴルよけいな稼ぎは、一円五十銭、一円二十五銭、いつもそれぐらいなハンパな金で、蟇口のない三平は、それを手に握って私を訪ねてくるのであった。彼のオゴリは、新橋のコップ酒か、本郷の露店であった。
時たま私が彼を小料理屋へつれて行く。どうせ私の行く店だから、最も安直な店であるのに、彼はどうしても店になじめず、
「オレは、高級な店はキライだ。オレは、然し、たゞ酒をのめばいゝ、というんじゃないよ。高級らしいものほど、オレにとっては、みすぼらしい、ということなんだ。高級は不潔だよ。人間らしくないんだ」
話の筋が通るうちはいゝけれども、酔っ払うと、こんな店はキライだ、と怒りだして、店のオヤジと喧嘩になって、追いだされてしまう。
私はもとより、三平の云う素朴なふるさとに安住できるものではない。