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しね!
死ね!
豊島 与志雄
「文芸」1934(昭和9)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,979 字 · 18 页
――僕にとって大切なのは、意力より感性だ。
――禽獣になれ。
――よりも、赤ん坊になりたい。
そこで彼は、非常に微妙な笑みを浮べた。私はそれに見覚えがあった。一時間も二時間も寝そべって、空の雲を見てる時、庭の蟻を見てる時、遠い昔の夢をでも思い出したらしい時、彼が無心にもらす微笑だった。また、ふくらんだ紙入を懐にした時の微笑だった。そんな時彼は、実用的なものよりも、不用なものを多く買った。或る時彼は、高さ一丈余の大きな自然石――見様によっては狸が立ったようにも見える得体の知れぬ石を、しきりに買いたがったことがある。何にするのかときくと、やはりこの微笑をもらした。私はそれに対して、ともすると苛立たしい気持になるのだ。
今も私は、或る苛立たしさを以て、彼の顔をじっと眺めた。彼の晴れやかだった顔が、急に悲しそうになった。取っつきを失いながら立去りかねてる悲しみだ。ばか、と私は怒鳴った。そして消えてゆく彼の後から叫んだ。
――死ね、死んでしまえ。
泣き虫だと彼から笑われた私は、不覚にもまた涙をこぼした。厄介な彼、邪魔な彼、自分の半身の彼を、私は愛していたのだ。