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しのぜんご

死の前後

豊島 与志雄

「経済往来」1933(昭和8)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 页

青空文庫

坪井だけのことならばいいけれど、彼女自身の方々の出先に対する不義理は、やがて彼女にとっては土地にいられないことを意味するものだった。そして彼女はふと、大連行きのことを考えたのである。或る朋輩が、先年大連に住みかえて、今では大変のんきに仕合せに暮しているという便りを、一寸耳にしたのがもとで、いろいろ聞き合せてみると、ひどい処のようでもあれば、らくな処のようでもあり、とにかく、彼女の無智な想像力がひどく煽られた。それでも、その大連行きということも、結局は気紛れな想像にすぎなかったが、或る日姐さんから少し手きびしい注意を受けて、この頃のお前さんの評判はとてもよくないとか、いつまでもそんなじゃあ家においとくわけにはいかないなどと云われると、急に淋しくなって、何となしに、おばさんに――おしげに――電話をかけてしまった。おしげは心配してやって来た。それを口実にして、一緒に近所の映画を一寸のぞき、帰りにソバ屋で休んだのだった。

おしげの顔を見ると、蔦子はいつも母親にめぐりあったような気になり、どんなことでも甘えられるのだった。時々の小遣や贈物など、するだけのことはしているという腹が、猶更甘えやすくするのだった。