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しのぜんご
死の前後
豊島 与志雄
「経済往来」1933(昭和8)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,273 字 · 35 页
そのためでもあろう、彼女はふだん極端に倹約で、給金の大部分を郵便貯金にしていた。娘から二十円三十円とまとまった小使をもらってくると、「奥さま」に必ずそれを見せて、貯金がふえるのを子供のように喜んでいた。彼女の唯一の贅沢は――入費は――肌着の類と紙とだった。うわべは粗末な着物をきていても、肌にはいつも真白な布をつけ、白い清潔な紙を使うのが、自慢だった。あの娘が――みち子が――そう申しました、と彼女は云い添えるのだった。恐らくみち子から仕込まれたのであろうところの、その白い清潔な肌着と腰巻と紙とが、島村夫妻の苦笑を招くこともあったが、其他の点では、彼女は一銭の金も無駄にしなかった。そして前からのいろんなものを合せて貯金が千円余りになってることを、そっと打明けられた時、島村の妻君は少なからず驚かされたのだった。
おしげは、死ぬ三日前に、みち子から電話で呼ばれて半日隙をもらって出かけていった。帰ってくると、何かじっと考えこんで、も一人の女中にもろくに口を利かなかった。それから中一日おいて、晩に、またみち子のところへ出かけていった。そしてその翌朝は、もう死体になっていたのである。