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ダンスマカブル

死の舞踏

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1928(昭和3)年9月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,576 字 · 21 页

青空文庫

「ビーという音名を、独逸風にハアと読むと言った様に。――」

「何? ハアと読む、ではBELPではなくて、HELPではないか。HELP、ヘルプ、助け。――アッこれは大変だ、助けてくれという意味かも知れないよ、どれ一寸見せてくれ、次の頁にはもう赤い記号は無いか」

私は忙しく愛子の手から楽譜を取り上げました。

次の頁を開くと、そこには、三つだけ赤い鉛筆の印が付いて居ります。それを拾って読むと、エスプレシイヴォのS。

ポコのO。

スケルツォのS。

「SOS、そんな字はあるかい、愛子さん、字引を持って来てくれ」

「アラ、それは難破船の救助符号じゃありませんか」

「あツ、そうだ」

私は思わず椅子から飛上りました。

「東京へ行くんだ、直ぐ。何んか大変な事があったに相違ない、自分で手紙を書けないので、こんな暗号を工夫して送ったんだ、――あの亭主の佐良井は、オタマジャクシを読めないから、何んにも知らずに、唯の楽譜だと思って送ったんだろう」

「どうしましょう」

「直ぐ東京へ行くんだ。一時間も、一分間も早く、幽香子は無事で居てくれればいいが。――」

足下から鳥が立つとはこの事でしょう。