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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

中々いい女である。

青春期の男女や、貴族、上流の婦人は、広く交際をしないから、すぐ手近い所の異性で済ます癖のある物であるが、私の前へ現れた女性として、私の齢に合うのは、この人だけである。

然し、私は、何事も、貧乏人的に育ってきたから、こうした女と恋をしようなどとは、決して、考えていなかった。

所が、ある夜薬局にいると一枚の処方箋を、徳子さんがもってきたが、その中に、散薬を包む四角い紙が入っていた。そして、その中に

「私は貴下が好きです」

と、書いてあった。私は、私の身体が、熱くなって、少しぼう張したように感じた。ああいう女が、女の方から、私に云いよるなんぞ、それは、何かの間違いではなかろうか、何うして返事を――何ういう文句で、何うして、それを手渡すか?

「私も、貴女が好きです」

という紙を、然し、次に徳子さんが、処方箋をもってきた時に、巧みに、人目に見つからぬよう渡した。

所が、この散薬紙での文通以外、話する事も、何うする事もできない。それで、私は、患者の来ぬ昼間、病院へ出かけて行って、話する事にした。然し、そうなると徳子さん程の女と、徳子さん程の女に思いつかれる程の男とだから、忽ち、評判になって、一日行って見ると、徳子さんが居ない。