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しまでをかたる

死までを語る

直木 三十五

「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页

青空文庫

の大阪者は、一度に、おじけをふるってしまった。

この上京から、大阪へ戻ると、いつの間にか、徳子一件を、雪ちゃんが知っていて、大いにすねた。もう、十四になっていたから、嫉妬に似た感情をもっていたのであろう。

徳子と離れ、雪子とおもしろくなくなり、一人ぼっちになった私を、じっと、覗っていた女が、ここに一人ある。

私は二十一、女は二十七。齢から見ると、所謂若い燕に当るが、女は、京町堀小町と唄われ、評判の美人である。

何故二十七歳に成るまで婚期を外したかというと、当時、有名な「大寺事件」というものがあった。江戸堀随一の旧家、元の十人両替の中の一軒、大寺家に起った謀殺事件である。これと、一寸、女の家とが関係があったので、婚期を失したし、又、意中の人として、木谷蓬吟氏を思うていて、ままにならなかったし、その為、こういう齢になったのである。この女が、上京して、私の童貞を破り、私は女の家へ乱入して、立廻りを演じるという恋あり、涙あり、武勇ありという話になるが、明月に。

二十三

雑司ヶ谷、鬼子母神の境内を抜けると、もう一つ寺がある。その側に、植木屋があったが、ここに、仏子須磨子の姉の子が、自炊して、早大へ通っていた。