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しまでをかたる
死までを語る
直木 三十五
「話」1933(昭和8)年9月号~1934(昭和9)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,739 字 · 85 页
三分の一仕上げた頃から楽になって、少しずつ進みかけたが、半分を終った頃、小川町の国民文庫刊行会という名著を大部な予約で出版する家から、「戦争と平和」の上巻だけが出た。私は今までの経験で、この時位がっかりした事は無かった。金高は四十円だが、一枚二十銭の稿料である。そして――まあ、何んなものか、諸君はやってみて、その困難さを知るがいい。
上巻は出たが、下巻は出ぬ。下巻が出るまで待つ訳に行かぬから又、読んでは書いたが、下巻へかかって暫くすると勇気を恢復して、とうとう二百枚にちぢめたが、この本はもう何処にもあるまい。発行所は、今の精文堂であったらしい。四十円もらった時には、然し、うれしくって、嘗て一度も、先生の家へ、物などもって行った事の無い私が、女房に鯉をもってやらせた。そして七円で、長火鉢を買った。初めて稿料をもらった記念にである。この長火鉢は、震災でなくなってしまった。
三十五
所で、ここに、一つ秘密を書かなくてはならぬが、ある日、私が戻ってくると、女房と、友人の某とが、炬燵の中に入っているのである。勿論、坐っていたが、炬燵へ入るには大抵、差向いを原則とするのに、友人と女房とは、三方を空けておいて、一方に二人が固まって、くっついているのである。