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ししゃをわらう

死者を嗤う

菊池 寛

「中央文學」1918(大正7)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,234 字 · 9 页

青空文庫

定まった日給で働いている人夫だ、そうした義侠的行動をしないのも無理のない話ではあるが。

が、この時彼はふと、二三年前、浅草で見た活動写真の事を思い出した。それは、米国のユニヴァサルのフィルムで、非常に肥満した女優を、主人公とした、追掛け沢山の、喜劇であった。そして、大女の女優が、真先になって、追掛けた後、かえって自分が湖水の中へ、転落する。それを皆が寄ってたかって救助にかかる。投げ込んだ縄に女優が掴まる。皆が力一杯引き揚げるが、ちょうど水面から、一間ばかり離れると、縄を引いている連中の力が抜けて、ダラシなく縄を緩めるので、女優は、水音高く再び水中に落込んでブクブクやる。それを見ると、見物は訳もなく嬉しがった。その段取を、幾回となく繰返すに連れて、潮のような哄笑が、見物席に幾度も、湧き立った。啓吉も、腹を抱えて、笑った一人である。彼は、このフィルムのヤマで、フィルム作者が頭を搾って考え附いた場面で、いかにも巧みに、群衆の笑いの心理を、掴んでいたのである。

ところが、現在啓吉の目撃している、屍体引揚げの場面も、この活動の場面と全く同じではないか。ただ快活な喜劇の女優の代りに、悲惨な屍体があった。