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さつじんき
殺人鬼
浜尾 四郎
「名古屋新聞」1931(昭和6年)4月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,139 字 · 13 页
自らシャーロック・ホームズを気取つているように思われるが、実はこれは彼にとつては、かなり淋しそうなのである。
私同様、父は既になくなり、母と二人で家をもつて、たいてい毎日、事務所に出ているのだつた。
こういう彼のことだから、婦人の客が来ると聞かされてもいつこう羨しがるべき理由はないのである。果して私の思つた通り、ロマンスではなく、事件の依頼人とみえる。
「これが今朝着いた手紙さ。速達で事務所に来ていたんだ。大分いそいだとみえて、ペンの運びが乱れてはいるが、相当の金持の、教育のある女だね」
彼はこう云つてクリーム色の洋封筒を私の前へさし出した。
私は黙つて中の紙をぬき出したが、それは封筒と同じクリーム色の洋紙で、細かい女文字でこう認められてあつた。
突然手紙を差し上げる失礼を御許し下さいまし。まだお目にかかつたことはございませんが、先生の御名前はかねてより承つてよく存じて居ります。ある事件につき、特に先生を見込んで御願いいたしたい用件がおこりました。私一身の事ではございませんが、私の家庭のことでございます。今日午後三時半に先生の事務所に伺いますから、御都合がよろしかつたら必ず御会い下さいますよう御願い申し上げます。