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さつじんき
殺人鬼
浜尾 四郎
「名古屋新聞」1931(昭和6年)4月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,139 字 · 13 页
詐欺だの横領の犯人になると、ずいぶん悪智慧をめぐらして犯罪を行う奴がいるが、殺人犯人にはちよつとないね。だいたい人を殺すなんて事が、馬鹿な話だからね。智慧のある奴じやできないよ」
彼は紅茶をすつかり呑んでしまつて、次の一杯をまた命じた。
「じや、智慧のある人間は殺人をしないとして、殺人狂なんてものはどうだい」
「殺人狂はたくさんある。しかし、余り智慧がないから、名探偵が出るまでもなく直ぐ捕まるよ」
「生来的に殺人狂で、そうしてすばらしく智慧のある奴が出て来ると、いよいよ名探偵が出動するわけかね。どうだい、そういう犯人と一つ一騎打の勝負をやつては?」
「それは僕も望んでいることなんだが、まあ当分だめらしいな」
藤枝はこういいながら、二本目のシガレットを灰皿にポンと投げこんだ。
人間というものは、どんなに偉くても一寸先も見えるものではない。
こんな会話があつてから、半月もたたぬうちに、藤枝はかねて望んでいた通りの――いやあるいはそれ以上の、大罪人と一騎打の勝負をしなければならなかつたのである。
しかも、その大惨劇の序曲が、この会話から一時間もたたぬうちに、はじまろうとは、全く思いもかけぬ事だつた。