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さつじんき
殺人鬼
浜尾 四郎
「名古屋新聞」1931(昭和6年)4月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,139 字 · 13 页
私は、ふと時計を見たが、三時にもう二分位しかなかつた。
「さつき三時半頃にお客が来るといつてたがまだいいのかい」
「まだいいさ」
彼はこう答えたが、意味ありげな笑顔をすると、ちよいと私を見ていつた。
「僕の望みは当分達せられそうもないが、女性礼讃者の君には多少の好奇心を与えるかも知れないお客様だよ」
「女の人かい」
私は、思わず云つてしまつた。
「うん、そうさ」
「どんな婦人だい、若くて美人かね」
「そうせき込み給うな。まだ会つたことはないんだ。今日がはじめての会見さ」
「なあんだ。しかし君のことだから、別に粋筋というわけでもなかろうが……」
「無論だ。事件の依頼人なんだよ。残念ながら、筆蹟から、顔かたちを推理する方程式がないので、美醜の程は判らないが、とにかく若い女たることはたしかだ。君だからかまわない、今朝、僕の所についた手紙を見せようか」
彼はこういいながらおもむろにポケットに手を入れた。
4
私はこの辺で、藤枝真太郎という男の経歴と、それから余り自慢にならぬ私自身の経歴とを読者諸君に一応、御紹介しておく必要を感ずるものである。
藤枝真太郎とは、五年ほど前まで、鬼検事という名で、帝都の悪漢達に恐れられ憎まれていた、もとの藤枝東京地方裁判所検事の後身である。