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とのさまのちゃわん
殿さまの茶わん
小川 未明
「婦人公論」1921(大正10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
それは、軽い、薄手の上等な茶わんでありました。茶わんの地は真っ白で、すきとおるようでございました。そして、それに殿さまの御紋がついていました。
「なるほど、これは上等の品だ。なかなかいい音がする。」といって、お役人は、茶わんを掌の上に乗せて、つめではじいて見ていました。
「もう、これより軽い、薄手にはできないのでございます。」と、主人は、うやうやしく頭を下げて役人に申しました。
役人は、うなずいて、さっそく、その茶わんを御殿へ持参するように申しつけて帰られました。
主人は、羽織・はかまを着けて、茶わんをりっぱな箱の中に収めて、それをかかえて参上いたしました。
世間には、この町の有名な陶器店が、今度、殿さまのお茶わんを、念に念を入れて造ったという評判が起こったのであります。
お役人は、殿さまの前に、茶わんをささげて、持ってまいりました。
「これは、この国での有名な陶器師が、念に念を入れて造った殿さまのお茶わんでございます。できるだけ軽く、薄手に造りました。お気に召すか、いかがでございますか。」と申しあげました。
殿さまは、茶わんを取りあげてごらんなさると、なるほど軽い、薄手の茶わんでございました。