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とのさまのちゃわん
殿さまの茶わん
小川 未明
「婦人公論」1921(大正10)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,795 字 · 8 页
」と、殿さまはいわれました。
「だれが造りましたかぞんじません。そんな品は、名もない職人が焼いたのでございます。もとより殿さまなどに、自分の焼いた茶わんがご使用されるなどということは、夢にも思わなかったでございましょう。」と、百姓は恐れ入って申しあげました。
「それは、そうであろうが、なかなか感心な人間だ。ほどよいほどに、茶わんを造っている。茶わんには、熱い茶や、汁を入れるということをそのものは心得ている。だから、使うものが、こうして熱い茶や、汁を安心して食べることができる。たとえ、世間にいくら名まえの聞こえた陶器師でも、そのしんせつな心がけがなかったら、なんの役にもたたない。」と、殿さまは申されました。
殿さまは、旅行を終えて、また、御殿にお帰りなさいました。お役人らがうやうやしくお迎えもうしました。殿さまは、百姓の生活がいかにも簡単で、のんきで、お世辞こそいわないが、しんせつであったのが身にしみておられまして、それをお忘れになることがありませんでした。
お食事のときになりました。すると、膳の上には、例の軽い、薄手の茶わんが乗っていました。それをごらんになると、たちまち殿さまの顔色は曇りました。