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ははとむすめ
母と娘
岡本 かの子
「女性文化」1934(昭和9)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,828 字 · 20 页
私はママの心の中に融け込むような、なごやかな気持ちで帰って行きます、楽しみにして待って居て下さい………(後略)」
前庭の芝生に面した居間、兼客間で午後の日射しを受けてアグネスからの最終の通信を読んで居たスルイヤは、今まで勝気に胸中の苦悶を圧えつけて居ただけに、其の手紙の中に書かれてあるドイツの戦死者の未亡人イリデの嘆きに引き入れられて、烈しくむせび泣いた。夫の戦死以来の悲しい追憶が次ぎから次ぎへとスルイヤの胸をついて出た。彼女はやがて、ぐったり疲れた体を安楽椅子から起こしてぼろ自動車で踏み散らされた前庭を少し手入れしようと玄関の戸を開けて階段を下りかけたが、ちょっと立止まって晴れ上った夏の青空を眺めた。あんなに飛行家志願だった娘の心を自分の感情の為めに止させてしまったのが不憫で堪らないように感じた。それと同時に自分等の消極的平和主義の時代は過ぎ去って新しい時代、戦闘準備を完全にして始めて平和の保たれる時代が来て居るようにも感じられる。自分等の嘆きに娘の新しい思想を一がいにくらましてはならないとも感じられる。何事も娘が帰ってから更めて語り合おうと心を定めた。