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ははのてがみ
母の手紙
中野 鈴子
「ナップ 第一巻第四号」戦旗社、1930(昭和5)年12月13日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 985 字 · 2 页
人のために
命も牢やも物ともしないで働いていたんだか
そして命も牢やも物ともしないで働いている人がそんなにたくさんいるんかいの
大学校まで出た旦那衆の息子さんらや
大学校の先生までもいなさるんじゃってな、お前の言うことはよく分かっただ
いまは毎日、あの田の草取りだ
昼間の暑い陽ざかりにジリジリの
煮え湯の泥田を四つんばいになって這うて
歩くのじゃ
顔も手もぼんぼんにふくれ上がり
爪の先がずくずくうずくだ
六十ごけ婆がこのように
もがいても喰う米も無いんだ
その横で地主の奥様は夏羽織で
お寺まいりなさるし、若旦那衆は
洋服で海へ行ったり
ボール投げしているだ
わたしはわかっただ
お前の言う通りだ
辛い不幸なお母あはわたしひとりでない
喰えないお母あや息子や、子供で一ぱいだ
何と言う者がいようと お前のしたことは真直ぐだ
お母あの生計のことなんど小指ほども
心配するでない
お母あはこのように元気なのじゃもの
そのような 牢やの中で心配していると
お前の体が立たんぞも
お母あは、田圃の中で
いろりのくすり火の中で
牢やの中のお前と一つこころじゃ
力んでいるだ
手を合わせて念じているだ
夜も そう思うて寝むるだ