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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
た。かの女の顔色は女中に見咎められる程真青だった。かの女は自分の部屋へ入って半病人のように机の前に坐ると「もう逢わない。もう逢わない」こう独言を云ってから規矩男に簡単な絶交状めいた手紙を書いた。
その夜、かの女は晩く、こんなことを話し合える夫と妻とについて内心不思議がりながら、逸作に規矩男と自分との経過のあらましを話した。
「はははは……。そんなことだったのか、そうかははは……。だけどお蔭で君の一郎熱が近頃余程緩和されてたね。なあに規矩男君にも時々逢うさ。そして一郎熱を緩和しながら、君ももうすこし落着いて仕事にかかりたまえ」
逸作はこう云って莨に火をつけ、軽く笑い続け乍らかの女をまじまじと視ていたが、
「きみい(君)、規矩男君の許嫁や僕に済まないと思わないで、一郎にばかり済まないって面白いなあ……ははは……」
「……その済まなさも私の何処かに漠然と潜んでいたには違いないのよ。でもそれは単なる道徳上の済まなさになるんだから、そんなに強いもんじゃないでしょう。こっちはしんからびりびりッと本能の皮膚にさわって来たのよ、もっともこの問題はむす子を仲介にして始まったんですから、むす子への済まなさが中心になったのがあたり前でしょうけど」