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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

それは爬虫類の掌のようでもあれば、吹きつけた火の粉のようでもある。

かの女は「まあ!」といって、身体は臆してうしろへ退いたが、眼は鋭く見詰め寄った。微妙なもの等の野性的な集団を見ることは、女の感覚には、気味の悪いところもあったが、しかし、芽というものが持つ小さい逞しいいのちは、かの女の愛感を牽いた。

「こんな腐った髪の毛のような蔓からも、やっぱり春になると、ちゃんと芽を出すのね」

かの女は、こんな当りまえのことを考えながら、思い切って指を出し、蔦の小さい芽の一つに触れると、どういうものか、すぐ、むす子のことを連想して、胸にくっくと込み上げる感情が、意識された。

かの女は、潜り門に近い洋館のポーチに片肘を凭せて、そのままむす子にかかわる問題を反芻する切ない楽しみに浸り込んだ。

洋画家志望のかの女のむす子は、もう、五年も巴里に行っている。五年前かの女が、主人逸作と洋行するとき、一緒に連れて行って、帰国の時そのまま残して来たものだ。

今日の昼も、かの女は、賢夫人で評判のある社交家の訪問を受け、話の序に、いろいろむす子の、巴里滞在について質問をうけた。

「おちいさいのに一人で巴里へおのこしになって……厳しい立派なおしこみですねえ。