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ぼしじょじょう
母子叙情
岡本 かの子
「文学界」1937(昭和12)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页
身体に一本の太い棒が通ったように、むす子のことを思い詰めて、その想い以外のものは、自分の肉体でも、周囲の事情でも、全くかの女から存在を無視されてしまうときに、むす子のいる巴里は手を出したら掴めそうに思える。それほど近く感じられる雰囲気の中に、いべき筈のむす子がいない。眼つきらしいもの、微笑らしいもの、癖、声、青年らしい手、きれぎれにかの女の胸に閃きはするが、かの女の愛感に馴染まれたそれ等のものが、全部として触れられず、抱え取れない、その口惜しさや悲しさが身悶えさせる。ふとここでかの女の理性の足を失った魂のあこがれが、巴里の賑やかさという連想から銀座へでも行ったらむす子に会えそうな気を彼女にさせる。さすがに彼女も一二度はまさかと思い返してみるけれども、今度は、あこがれだけがずんずん募って行って、せめてあこがれを納得させるだけでも銀座へ踏み出してむす子の俤を探さなければ居たたまれないほど強い力が込み上げて来る。で、ある時はむしろ、かの女の方から進んで銀座へ出たがるので、そんなとき逸作はかの女の気が晴れて来たのかと悦んでいる。かの女は夢とも現実とも別目のつかないこういう気持に牽かれて、モナミへ入り、テーブルに倚りかかって、うつらうつらむす子と行った巴里のキャフェを想い耽る。