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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

モンパルナスのキャフェ・ド・ラ・クーポールの天井や壁から折り返して来るモダンなシャンデリヤの白い光線は、仄かにもまた強烈だった。立て籠めた莨の煙は上から照り澱められ、ちょうど人の立って歩けるぐらいの高さで、大広間の空気を上下の層に分っている。

上層は昼のように明るく、床に近い下層の一面の灰紫色の黄昏のような圏内は、五人或は八人ずつの食卓を仕切る胸ほどの低い靠れ框で区切られている。凡ゆる人間の姿態と、あらゆる色彩の閃きと、また凡ゆる国籍の違った言葉の抑揚とが、框の区切りの中にぎっしり詰っている。出どころの判らない匂いと笑いと唄とを引き切るように掻き分けて、物売りと、分別顔のギャルソンが皿を運んだり斡旋したりしている。

「しまった、お母さん、いい場所を先に取られちゃった」

かの女をモンパルナスのキャフェ・ド・ラ・クーポールに導いて入ったむす子は、ダブル鈕の上着のポケットから内輪に手を出し、ちょっと指してそういった。

そこは靠れ壁の枡目の幾側かに取り囲まれ、花の芯にも当る位置にあった。硝子と青銅で作られた小さい噴水の塔は、メカニズムの様式を、色変りのネオンで裏から照り透す仕掛けになっている。