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ぼしじょじょう

母子叙情

岡本 かの子

「文学界」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 77,355 字 · 153 页

青空文庫

かの女の肉体(かの女の肉体も事実年齢より十歳以上も若いのだと、かの女の薬にいつも小児散を盛り込む或る医者が云った)か精神のはげしい知性のほかの一個所に非常に白痴的な部分があり、その部分の飛躍がかの女の交感の世界から或る人々を拉し来って、年齢の差別や階級性を自他共に忘れさせる――或る時期からの逸作は、かの女を妻と思うより娘のように愛撫し、むす子は妹のように労り、現に規矩男という怜悧な意志を持つこの若者までが、恰も同年輩か寧ろあるときは年少の女性に向うような態度をかの女にとって当然としている。その他の友達。そしておかしなことにはかの女自身まで――かの女には二十四五歳位からの男女を見ると、むしろ自分より実世界に於ける意志も生活能力も偉れた人のように往々見える。この普通常識から批判すれば痴呆のような甘いお人好しの観念が、時にかの女の知性以上に働いて、かの女を非常に謙遜にしたり、時には反対に人を寛大に感じさせ過ぎてかの女を油断に陥れる……

かの女が黙って考えているのを規矩男は気づかった。

「僕があれを隠しているのが悪いかしら」

「そうじゃないの。私、時々飛んでもないよそ事をふっと考え込んじまう癖があるのよ」