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ははおや

母親

豊島 与志雄

「読売評論」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页

青空文庫

そしてその非情によって、母たるあなたを尊重し、あなたの娘の喜久子さんを尊重したい。このことを許容し得るほど、母たるあなたが強いことを、私は信じ且つ祈る。

信子はいつも、仕事を大切にし丁寧にしている。仕事というのは、表に小さく看板を出してる御仕立物のことで、それによって細々と生活してるのである。

新らしい仕立物は言うまでもなく、着物の縫い直しまで、彼女は丹念にやる。仕上げると、仕附糸まで仔細に見調べた上、折目正しくたたんで、錦紗の風呂敷につつみ、胸高く手で抱えて、依頼先へ届けに行く。

街路には、銀杏の黄色い葉が散り敷いている。その上を彼女は、吾妻下駄で小股に歩いてゆく。態度はつつましいが、腰には力がこもり、そして誇らかな微笑が頬に漂っている。

――吉岡は酒の最後の一滴まで飲み干した。酔いに頬を赤くほてらし、少しふらつく足取りで、散歩に出た。街路につもってる銀杏の葉を、ぱっぱっと蹴散らして歩いた……。信子よ、私は男だ。落葉を踏み砕き、蹴散らして、颯爽と歩きたいのだ。あなたは女だ、しとやかに歩きなさい。然し、あなたはまた母親でもある、力強く歩きなさい。