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ははおや

母親

豊島 与志雄

「読売評論」1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,057 字 · 11 页

青空文庫

」

見物人の横手に交って、二人は掌を合せて拝み、それから信子は娘の手を引っ張るようにして、足早に立ち去ってゆく。

――吉岡は酒を立てつづけに飲んだ……。信子よ、なぜまた嘘を言うのか。娘の七つのお詣りは、それで立派にすんだし、あなたもそう感じてる筈だ。着換えをしてまた参りましょうと、そんな言葉がどこから出るのか。近くにいる人たちに聞かせるための言葉だったのか。娘の心を慰めるための言葉だったのか。いずれにしても、そのような気遣いは不用ではないか。喜久子さんの態度の方が、あなたよりも素直で立派だったことを、あなたは心で泣いてはいなかったか。その感涙と、神社側のあのやり方に対する憤懣と、あの綱張りの中にはいるには如何ほどの金がいるかと率直に聞けなかった切なさとを、なぜそのまま喜久子さんに打ち明けないのか。

喜久子はおとなしく信子についてゆく。それでも、飴や玩具の屋台店の方へ、ちらちら眼をやる。神社の境内から出ると、信子はやさしく娘をかえり見て言う。

「くたびれたでしょう。少しゆっくり歩きましょうね。」

信子の方こそ、凍れたように首垂れている。

町角に、果物屋があって、蜜柑や林檎や柿が美しい色を氾濫さしている。